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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10862号 判決 1978年10月31日

原告

片山文夫

ほか二名

被告

会津乗合自動車株式会社

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告片山文夫に対し金四五五万九三〇八円、原告片山三夫に対し金三〇万円、原告堀宏子に対し金一九万三〇〇〇円及び右各金員に対する昭和五一年一月一八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

昭和四七年一二月三〇日、原告片山文夫(以下原告文夫という。)は、自家用普通乗用車(栃四四ぬ八八九二号、以下本件原告車という。)を運転して国道一二一号線を山形県米沢市方面から福島県喜多方市方面に向けて進行し、同日午後四時三〇分ころ、同市岩月入田付字長尾佐三〇五五番地先路上にさしかかつた際、反対方向から進行してきた被告五十嵐正義運転の営業用旅客自動車(福島二く三四九三号、以下本件被告車という。)と衝突し、原告文夫は頭部挫傷、脳挫傷、頭部挫創、右頬部臥部挫創、頸椎捻挫等の傷害を、本件原告車に同乗していた原告堀宏子は前額部挫創、脳震盪症、頸椎捻挫の傷害をそれぞれ受けた。

2  (責任原因)

(一) 本件被告車は被告会社の所有で、本件事故は被告会社の被用者である被告五十嵐が被告会社の業務の執行として被告車を運転中、後記(二)記載の過失により惹起したものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条に基づき原告文夫、同堀の被つた後記損害を、民法七一五条に基づき原告三夫の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告五十嵐は、自動車の運転者として、自動車を運転する際、道路中央線より左側を走行しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、漫然と道路中央線を越えて進行した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  (損害)

(一) 原告文夫

(1) 治療費

原告文夫は本件事故による前記傷害の治療のため、昭和四七年一二月三〇日から昭和四八年一月二〇日までの間入沢病院に、同日から同年四月二五日までの間塩谷病院にそれぞれ入院した外、その後も五三一日間にわたつて同病院に通院した(内実通院日数四〇日)。ところで、原告文夫は国民健康保険を利用して右各治療を受けたものの、治療費として入沢病院へ金六万四六二六円、塩谷病院へ金一七万八一六九円、合計金二四万二七九五円を支払つた。

(2) 附添看護費

原告文夫は本件事故後直ちに入沢病院に収容されたが意識不明で生命も危ぶまれる程であつたので、同人の父である原告三夫と母の両名は直ちに同病院にかけつけ看護にあたつた。幸いにして、原告文夫は一命をとりとめ、昭和四八年一月二〇日塩谷病院に転院したが、このころも辛うじて親の顔を識別し得る程度であり、同年二月末ころには、会話をかわすようになつたものの、その直後には誰と何を話していたのか全くわからないという意識状態であつたため、父母は家業の造園業を休業し二人で看護を続けたため、原告三夫はその間全く収入を得ることができなかつた。右看護は同年三月以降も続けられたが、同年二月二八日までに失なつた収入は次のとおりであり、原告文夫の前記症状からすると右の失なつた収入相当額をもつて附添看護費とみるべきである。

原告三夫は造園業を営み自宅で植木等の販売をしていた外、妻とともに毎年一月、二月には栃木県北部の約一八ないし二〇か所で開かれる花市で植木を販売しており、昭和四七年一月には金八二万四九七六円、同年二月には金三四万九一三〇円、合計金一一七万四一〇六円の収入があつたが、もし右のように原告文夫の附添看護のために休業しなければ、昭和四八年一月及び二月には、前年同期以上の収入を得られた筈であるところ、昭和四八年一月及び二月の収入は附添看護のため二月に自宅での売上が金一六万五二〇〇円あつただけであつた。したがつて、原告文夫の附添看護費は昭和四七年一月、二月の収入と、昭和四八年一月、二月の収入との差額の金一〇〇万八九〇六円とみるべきである。

(3) 入院雑費

原告文夫は、前記のように入沢病院及び塩谷病院に合計一一八日間入院したが、右入院期間中、一日当り金五〇〇円、合計金五万九〇〇〇円の諸雑費を要した。

(4) 転院費用

原告文夫は、入沢病院から塩谷病院へ転院するに際し、原告三夫の知人である訴外小竹節に依頼して車で転院させてもらつたが、同人に対し、金二万円の謝礼を支払つた。

(5) 休業損害

原告文夫は、本件事故当時、原告三夫のもとで造園工(植木職)見習として働いており、当時造園工一般の賃金は日当金五〇〇〇円であつたが、原告文夫については日当金四〇〇〇円と評価されていた。また、昭和四九年一月一日から造園工の賃金は日当金六〇〇〇円となつたから、本件事故により受傷しなければ原告文夫のそれも同日以降少なくとも金四八〇〇円となつていた筈である。ところで、造園工は作業の性質上高所に登つたり、重量物を運ぶ機会が多いため、原告文夫は昭和四八年四月二五日に塩谷病院を退院した後も同年八月三一日までの間(本件事故の翌日から二四四日間)は全く稼働することができず、同年九月一日から同年一二月末日までの一二二日間は七〇パーセント、昭和四九年一月一日から同年四月三〇日までの一二〇日間は四〇パーセント、同年五月一日から同年一〇月八日までの一六一日間は二〇パーセント、それぞれ稼働できなかつた。したがつて、右の各数字を基礎として、原告文夫の本件事故後昭和四九年一〇月八日までの休業損害を算出すると、その額は合計金一七〇万二五六〇円となる。

(6) 労働能力喪失による損害

原告文夫は昭和四九年一〇月八日、後遺症として自賠法施行令別表一四級相当のむち打ち症が存するとの認定を受けたが、作業の特質上同月九日以後二年間にわたり労働能力は一〇パーセント低下したと考えられるから、前記原告文夫の日当を基礎にホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して、原告文夫の昭和四九年一〇月九日以降の労働能力喪失による逸失利益を算出すると金三二万六〇四七円となる。

(7) 慰藉料

原告文夫は前記の傷害を受け、当初は生命の危険にさらされ、長期の療養を要しただけでなく、原告三夫のあとを継ぎ造園業を続けられるかどうかも危ぶまれている現状であり、そのほか前記の後遺症も残存し、その精神的苦痛ははかり知れないものがあり、これが慰藉料には金一八九万円が相当であるところ、自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)から後遺症一四級相当の保険金として金一九万円の支払を受けたので、これを右慰藉料債権に対する内払として充当し、本訴においては金一七〇万円の支払を請求する。

(8) 損害の填補

原告文夫は自賠責保険より本件事故による傷害分として金五〇万円の支払を受けたので本件損害賠償債権に対する内払として充当した。

(二) 原告堀

(1) 治療費

原告堀は本件事故による前記傷害の治療のため、昭和四七年一二月三〇日から昭和四八年一月四日まで入沢病院に、同月五日から同月一七日まで山形県酒田市立酒田病院にそれぞれ入院した外、同年二月一五日から同月二三日まで国立国府台病院に通院した(実通院日数四日)。ところで、原告堀は入沢病院及び国立国府台病院での治療は国民健康保険を利用したものの、治療費として入沢病院へ金九四九九円、市立酒田病院へ金五万七九六〇円、国立国府台病院へ金二九二五円、合計金七万三八四円を支払つた。

(2) 附添看護費

原告堀は昭和四八年一月五日から同月一四日までの一〇日間安静のため附添看護を要し、この間家族が附添つたが、右費用は金二万円が相当である。

(3) 入院雑費

原告堀は前記のように入沢病院及び市立酒田病院に合計一九日間入院したが、右入院期間中一日当り金五〇〇円、合計金九五〇〇円の雑費を要した。

(4) 慰藉料

本件事故による原告堀の受傷の部位、程度は前記のとおりであるが、右傷害の後遺症として、頭部、前額部に自賠法施行令別表一二級に相当する皮膚瘢痕を残してしまつた。同原告は本件事故当時二〇歳の未婚の女性で、国立国府台病院附属高等看護学校の学生であつたが、その精神的苦痛は甚だ大きく、これが慰藉料は金七二万円が相当であるところ、自賠責保険から後遺症一二級相当の保険金として金五二万円の支払を受けたので、これを右慰藉料債権に対する内払として充当し、本訴においては金二〇万円の支払を求める。

(5) 損害の填補

原告堀は自賠責保険より傷害分として金一〇万六八八四円の支払を受けたので、これを本件損害賠償債権に対する内払として充当した。

(三) 原告三夫

本件原告車は原告三夫が昭和四七年一〇月三一日に金三〇万円で購入したものであるところ、使用後わずか二か月にして、本件事故により大破し使用不能になつてしまつた。したがつて、本件原告車破損により、原告三夫の被つた損害は右購入価格である金三〇万円とみるのが相当である。

よつて、被告らに対し原告文夫は金四五五万九三〇八円、原告堀は金一九万三〇〇〇円、原告三夫は金三〇万円、及び右各金員に対する本件訴状送達の日の後である昭和五一年一月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告文夫、同堀の受傷内容は不知、その余は認める。

2  同2の事実中、被告五十嵐が原告ら主張のように注意義務を怠つて道路中央線を越えて進行したことは否認し、その余の事実は認める。

本件事故現場附近は、ゆるやかな勾配の続くカーブの多い幅員五・五メートルの道路で、本件事故当時路面が凍結していたため、被告五十嵐は本件被告車を運転し、時速約二五キロメートルで道路中央線の左側を進行していたところ、前方約五五メートル附近に時速約六〇キロメートルで道路中央線を越えて進行してくる本件原告車を認め、衝突の危険を回避すべく急停車したものの、その際、本件被告車が左にカーブしている路面上を約二・五メートルにわたつてスリツプし、本件被告車の前部右角部が道路中央線を約六〇センチメートル越える位置に停車したが、本件原告車が道路中央線を越えたまま進行してきたため、停止した本件被告車の道路中央線の左側部分に衝突し、本件事故が発生したものである。

右のように本件被告車が停止した際にその前部右角部が道路中央線を約六〇センチメートル越えていたのは、本件原告車との衝突を回避するためにとつた緊急措置のためであるところ、それに対し、原告文夫はカーブの多い三パーセントの下り勾配の路面が凍結を、タイヤチエーンを巻くなどのスリツプ防止策を講じないばかりか、トレツドの摩耗したタイヤを装着した本件原告車を道路中央線を越え時速約六〇キロメートルで走行したために、前記のように本件被告車が道路中央線を越えて停止した後も、原告車の進行車線側には幅一・六メートルの原告車が十分通れる約二・一メートルの余裕があつたにもかかわらず、被告車と衝突したものである。したがつて、本件事故はもつぱら原告文夫の過失によるもので、被告五十嵐には本件事故発生について過失はない。

3  同3の事実中、原告文夫及び同堀が同原告ら主張の金額の自賠責保険金の支払を受けたことは認めるが、同原告らの受傷内容及び治療の態様は不知、その余の主張はいずれも争う。

原告文夫の損害中、同原告主張の附添看護費は、原告文夫の症状からして事故後両親が常時附添看護を要したとは考えられないばかりか、植木市へ出荷しなかつた植木は商品として残つているはずであるうえ、植木市の売上げには、出荷のための費用等の諸経費が含まれているはずであり、しかも右利益中には原告文夫の労力分があるはずであるから同人の休業損害が二重に計算されており、不当である。

また、同原告の休業損害、労働能力喪失による損害とも、原告文夫が暦日数稼働することを基礎として算出されているが、同人にも休日があつたはずであり、また仕事の性質上雨天等には仕事が休みになるはずであるから、労働日数は一か月二〇日を最大限として計算すべきである。更に昭和四八年九月一日から同四九年一〇月八日までの期間については現実に就業した日数に基づいて算出すべきである。

原告三夫は車両損害として購入価格の金三〇万円を主張するが、右購入価格のうち金五万円は諸経費代金であり、購入後二か月使用した償却分を考慮すべきである。

三  抗弁

1  (免責の抗弁)

本件事故がもつぱら原告文夫の過失によるもので、被告五十嵐に過失がないことは前記請求原因に対する認否2において主張したとおりであり、本件被告車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

2  (過失相殺の抗弁)

仮に、被告五十嵐が急停車の措置をとり、本件被告車がスリツプして車体の右先端が前記のとおり中央線を越えて停止したことについて何らかの過失を認めるとしても、本件事故は前記のとおり原告文夫の無謀運転という重大な過失に起因するものであるから、賠償すべき損害額の算定にあたつては、これが斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、本件被告車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたことは知らない。抗弁1で引用する請求原因に対する認否2の被告らの主張中、本件事故当時本件現場附近の路面が凍結していたこと、本件原告車がタイヤチエーンを装着していなかつたことは認めるが、本件被告車の速度及び同車が急停車したことは知らない。その余の事実は否認もしくは争う。原告車は時速約四〇キロメートルで進行してきたものであるうえ、装着していたタイヤは一か月前に交換したばかりでほとんど摩耗しておらず、同車がスリツプしたのは路面の凍結と、下り勾配に起因するものである。

原告車は当時自己車線をやや右に寄りながら直進していたもので、本件事故は被告車が道路中央線を越えたため発生したものである。

2  同2の主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告文夫が昭和四七年一二月三〇日、本件原告車を運転して国道一二一号線を山形県米沢市方面から福島県喜多方市方面に向けて進行し、同日午後四時三〇分ころ、同市岩月入田付字長尾佐三〇五番地先路上にさしかかつた際、反対方向から進行してきた被告五十嵐運転の本件被告車と衝突し、そのため原告文夫と本件原告車に同乗していた原告堀がそれぞれ傷害を受けたことは当事者間に争いがない。

二  ところで、原告らは、本件事故は、被告五十嵐が、道路中央線を越えて進行した過失により発生したものである旨主張し、被告らにおいてこれを争つているので以下この点について判断する。

成立に争いのない甲第一五号証、第二〇号証、乙第一、第二号証、第五号証の一ないし三、第六、第七号証(乙第五号証の一ないし三は原本の存在も当事者間に争いがない。)三浦大輔作成部分についてはその成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分については原告片山三夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、同本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一六ないし第一九号証、昭和四七年一二月三一日にそれぞれ本件被告車及び原告車を撮影した写真であることに争いのない乙第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし五、本件被告車の右前部、本件原告車、本件事故現場附近をそれぞれ撮影した写真であることに争いがなく、証人下川諭の証言により昭和四八年一月六日、同月一五日にそれぞれ撮影したものと認められる甲第一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証、原告片山三夫本人尋問の結果により昭和四八年一月六日にそれぞれ本件事故現場に印されたスリツプ痕、衝突箇所を示す白線を撮影した写真であることが認められる甲第二一号証の一ないし五、第二二号証の一、二、昭和五三年六月二〇日に本件現場を撮影した写真であることに争いがなく、弁論の全趣旨からそれぞれ乙第八号証の二記載の図面に対応する地点を撮影したものと認められる乙第八号証の三ないし九、証人木村良知、同渡辺力雄の各証言及び被告五十嵐正義本人尋問の結果を総合すると、本件事故の発生した国道一二一号線は福島県会津若松市方面から山形県米沢市方面へ南北に通じる道路で、本件事故現場附近は、米沢市方面へ向かつて約一三〇度左へカーブしており、道路の西側は台地、東側は田となつていて同カーブの会津若松寄りの被告車の進行車線の中央附近からは約三〇メートル前方の対向車線の中央附近が見通すことができ、また同方向へ〇・二パーセントの上り勾配となつており路面はアスフアルトで舗装されていたが、事故当時路面は凍結していて(同路面凍結の事実は当事者間に争いがない。)、歩行に困難を感ずる程であつたこと、道路の幅員は約六・一メートルあつたが、雪が道路の両側にそれぞれ幅、厚さともに約〇・二メートル積もつていたこと、事故後、事故地点とみられる地点から会津若松市方面寄りの路面上に被告車のスリツプ痕と思われる長さ九・九メートルと一〇メートルの二条の直線状のスリツプ痕が残つており、右二条のスリツプ痕のうち東側のスリツプ痕は道路西端から二・八五メートルの地点を起点とし、終点は道路中央線を若干越えた状態で印されていること、一方右スリツプ痕より米沢市方面寄りの路面上には原告車のものと思われる長さ二六・八メートルのスリツプ痕とその西側に車輪のころがり痕が残つており、右スリツプ痕は原告車側車線上で、その起点が道路東端から二・六五メートル、その終点が同じく道路東端から二メートルの地点であるが、右ころがり痕は反対車線上すなわち被告車側の車線上に印されており、右スリツプ痕ところがり痕の間隔は原告車の轍間距離と一致していたこと、右各スリツプ痕の相互の位置関係及びガラス片等の落下物の所在位置等から、本件衝突時被告車はその右前角部が道路中央線から約〇・五メートル原告車側車線上に斜めに出た位置にあつたとみられること、さらに本件衝突により原告車は右前照燈附近から運転席附近までの部分が大破しているのに対し、被告車は前部右角部から中央寄り約〇・七メートルの附近に衝突痕があることがそれぞれ認められ、右各認定事実に証人渡辺力雄、同下川諭、同木村良知の各証言及び被告五十嵐正義本人尋問の結果を併せると、被告五十嵐は、全幅二・四五メートル、全長九・一八メートルの本件被告車を運転して米沢市方向へ時速約二〇ないし二五キロメートルで本件道路の自己車線上を進行し、本件カーブにさしかかつた際、本件衝突地点より約一五・九メートル手前で、前方四七・五メートルの地点に、対向して会津若松市方面へ向けて進行してくる本件原告車を発見したが、そのとき同車が道路中央線をまたぎ被告車の進行車線に約一メートル侵入した状態で進行してきていたので、被告五十嵐としては、被告車がそのまま進行を続けると両車両が衝突する危険があると判断し、急ブレーキをかけたところ、路面が凍結していたこともあつてスリツプし、同車の右前角部が道路中央線を約〇・五メートル越えた位置に停止したが、右停止直後に、ハンドルを左に切るとともに急ブレーキをかけたためスリツプしたまま進行してきた原告車が衝突したものであることが認められ、証人下川諭の証言、原告片山文夫、同片山三夫各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比し、殊に右原告片山三夫本人の尋問結果部分は、前記ころがり痕の不存在を前提とするもので、いずれも措信することができず、他に右認定を覆す証拠はない。

以上認定事実に基づいて考えるに、確かに本件衝突時に被告車はその右前角部が道路中央線から約〇・五メートル原告側車線内に入つた位置にあつたが、右は被告車が危険を感じて急ブレーキをかけたためスリツプした結果であり、また、仮に被告五十嵐が原告車発見後も急制動の措置をとることなくそのまま進行した場合には対向車線にはみ出すことなく自車線内を進行しえたであろうことは推認し得るところであるが、前記のとおりの道路状況のもとで、原告車のように道路中央線をまたいで時速四〇キロメートルを越える速度で進行してくる車両があることは通常予測しえないところであり、被告五十嵐において、そのまま自車線内を進行した場合には、より激しい力で原、被告車が衝突する蓋然性が高いものと判断して急制動の措置をとつたことは首肯し得るところであり、他に被告五十嵐の運転上の過失をうかがわせるに足りる事情のない本件においては、この点をとらえて被告五十嵐の運転上の過失があつたものということはできず、被告五十嵐は本件事故につき責任がないものといわなければならない。

三  次に被告会社の責任の有無について判断するに、前記認定事実によると、被告五十嵐には運行上の過失はなく、本件事故はもつぱら前記のような原告文夫の過失により惹起されたものであることが認められ、前掲乙第一号証及び弁論の全趣旨によると本件被告車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつたことが認められるので被告会社には本件事故につき責任はないものといわなければならない。

四  そうだとするならば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないことに帰するから、失当としてこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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